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[第一審判決] 2002年8月28日(水)朝日新聞
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細菌戦の存在認定
東京地裁判決 原告請求は棄却
日中戦争が行われていた40〜42年に旧日本軍の731部隊が細菌戦を実施し、親族が死亡したなどとして中国人の遺族ら180人が日本政府に1人当たり1千万円の損害賠償と謝罪を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。岩田好二裁判長は、731部隊が細菌戦を実施したことを日本の裁判史上初めて認めた。死者数も「中国側の調査では約1万人にのぼる」と言及したが、日本の国家責任については「日中平和友好条約などで決着している」と述べ、原告側の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
(30面に関係記事)
政府は国会などで、731部隊の活動について「確認できない」との答弁を繰り返しているが、裁判所が正面から細菌戦の存在を認めたことで、今後、政府の対応がどう変わるかが注目される。
正式名称は関東軍防疫給水部。36年に旧満州のハルビン公害に設けられ、故・石井四郎軍医中将が隊長を務めた。
多くの軍医を集めてペストやコレラによる細菌兵器を研究。中国人捕虜らを、「丸太」と呼んで生体実験に使ったとされる。戦勝国の米国が戦犯免責を条件に研究データを提出させたため、731部隊の幹部らが東京裁判で裁かれることはなかったという。
訴えていたのは「細菌戦で親族が殺されたり、自分自身が被害を受けたりした」と主張した中国・湖南省と浙江省に住む中国人。
訴訟で、政府は細菌戦の有無について認否を明らかにしなかったが、岩田裁判長は、原告本人や元隊員、日中両国の研究者らの証言から細菌戦はあったと結論づけた。
判決によると、731部隊は陸軍中央の指令に基づき、ペスト菌を感染させたノミを3カ所から空中散布したほか、1カ所でコレラ菌を井戸や食物に混入。ペスト菌の伝播で被害地は8カ所に増え、細菌戦での死者数も「中国側の調査などでは約1万人いる」とした。
原告らが直接被害を受けたかどうかについても「陳述書や供述は十分に了解できる、説得的なものだ」と理解を示した。
さらに判決は、細菌戦が第2次世界大戦前に結ばれたハーグ条約などで禁止されていたと指摘。政府の責任について「国際慣習法に違反する国家責任が生じていたが、その責任は78年および日中平和友好条約などで決着した」と判断した。また、「日本の国会が立法措置によって救済に乗り出すべきなのに、怠っている」との主張に対しては、「法的な枠組みに従って検討する限り、立法を怠ったという違法があったとはいえない」と退けた。
浜秀樹・法務省民事訟務課長の話
主文を聞いた範囲では、国の主張が認められたと考えている。
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