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[関連事件・毒ガス判決] 2003年9月30日(火)朝日新聞
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旧日本軍毒ガス賠償命令
戦後処理行動促す
完全撤去なお遠く
中国での旧日本軍の毒ガス・砲弾遺棄をめぐり、日本政府に賠償を命じた29日の東京地裁判決は、戦争に原因がある事故に賠償や補償はできない、とする政府の立場を「正義に反する」と批判し、回収を放置してきた責任を強く指摘した。8月に中国黒竜江省で起きた毒ガスにより死傷事故を受けて、日本政府の対応に中国側からは反発も出ている。判決は戦後処理をめぐって、日本政府に厳しい対応を迫ったものといえる。(大島大輔、鵜飼哲、北京=栗原健太郎
=1面参照
猛毒のイペリットや青酸、くしゃみ剤。毒ガスが詰まった化学兵器は、日本政府の推計によると、中国黒竜江省や吉林省を中心に計70万発が埋まる。しかし、実態は不明だ。中国政府は推定200万発あると主張する。
他国に残した化学兵器の回収と廃棄を義務づけ、日本が批准した「化学兵器禁止条約」は97年に発効したが、処理済みの兵器は4万発前後。期限の07年までの完全撤去はできそうにない。
戦後58年たった今も被害は絶えない。黒竜江省チチハル市で8月4日、建設現場で出土した缶から毒ガスが漏れだし、1人が死亡、40人以上が負傷した。遺棄場所は広範囲に及び、原告弁護団によると被害者は2千人を超えたという。
日本政府はこれまで「72年の日中共同声明で中国は戦争賠償の請求を放棄した」と主張し続けてきた。
しかし、判決はこうした、なお続く悲惨な実態を見据え、遺棄行為は終戦後も行われているとし、「戦後これだけの年月がすぎ、突然災難が降りかかった被害者がなぜ賠償請求できないのか」と指摘。声明で合意した戦争中という要件に縛られないとの判断を示し、声明以降、被害防止に積極的に取り組んでこなかった日本政府の姿勢を批判した。
この判断によると、少なくとも72年9月以降の被害は賠償の対象となり泣き寝入りをしてきた被害者らによる訴訟も活発化しそうで、日本政府が包括的な賠償交渉を迫られる可能性も出てきた。
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