《シリーズ・『裁かれる細菌戦』 vol.3_118ページ》






として研究室で保存されているペスト菌毒性株二株(1および105)について菌の性状を比較検討している。その結果一九四〇年の農安および新京におけるペスト流行からの分離株はすべての性状が一致すること、しかも七三一部隊での保存株とも同一であることが判明している。
 農安および新京におけるペスト流行の臨床的観察は、ペストで死亡した五七人の剖検の記録でもある。この五七人は、「Q報告」(一九四八年に七三一部隊から米国陸軍に提出され、ダグウエー軍実験場に保管されているペスト感染死者に関する報告書)のペスト死者五七人と同一である可能性が高い。

三 ペストの血清診断に関する研究

 ペストの罹患の有無、ワクチンの効果の判定など、血清中のペスト菌に対する抗体価の測定法に関する研究も精力的に行なわれ、適切な抗原の開発が進められた。
ペスト菌から抽出したペストイムノーゲンを抗原とした、皮膚反応の研究もなされている。患者あるいは感染者のペストに対する細胞性免疫の成立を調べるための研究である。
 農安および新京におけるペスト流行では、患者あるいは未感染の住民に対して、血中抗体価の測定および皮膚反応が実施された。ペストの診断において血中抗体価が陽性となるのは、発病後二〜三週間後であり、陽性率も低いことから、ペスト感染の診断的価値は低いと結論している。
 

前ページ次ページ
▲トップに戻る