《シリーズ・『裁かれる細菌戦』 vol.3_119ページ》






四 ペストワクチンに関する研究

 ペストワクチンは、死菌ワクチンおよび弱毒生菌ワクチンの両面から研究が行われており、実際に部隊員や、流行地の住民に接種し、それらフィールドワークの結果を参考に、効果的なワクチンの接種回数や抗体持続期間の研究から、ワクチンの改良が続けられている。
 わが国でペスト免疫の研究に従事していた春日忠善らは、弱毒生菌ワクチンの野外における効果を調べた。野外での効果を調べた地域は、竜江省、興安省、奉天省内のペスト流行地八県で、人口一四五万名(一九四〇年調べ)の地域である。春日らによると、一九三七〜一九三九年間は専ら死菌ワクチンが用いられ、一九四〇年以降は生菌ワクチンが用いられている。また、一九四〇〜一九四三年間に約一五〇万人の住民に生菌ワクチンを使用したと記載されている。生菌ワクチンの接種量は、成人一回一.〇ml(三mg)である。毒力を弱めたペスト菌株(当初はGirardのEV株および春日のMII四〇株を用い、のちにMII四〇株のみを用いた)を寒天培地で37度二日間培養した菌を三mg/mlに食塩水に浮遊させたものである。一五〇万人に一回接種した場合だけでもペスト菌の生産重量は四・五kgにのぼる。
 春日らは、野外接種の結果、生菌ワクチンは死菌ワクチンに比べて、微量で強大な免疫を賦与すること、生菌ワクチン一回接種より死菌ワクチン又は生菌ワクチン接種後の生菌ワクチンで追加免疫をすると効果が上がる事を示した。
 

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